三田矯正歯科ブログ

2017.10.10更新

マウスピース型カスタム矯正歯科装置での治療を検討されている方の中には、WEB上で色々と情報を手にされている方も少なくないと思います。そのような方は「クリンチェック」という単語をよく目にすることになると思います。今回は、この「クリンチェック」のお話です。

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左が治療前で右は治療結果のシュミレーションです(実際の治療結果ではありません)

「クリンチェック」と略して呼ばれることが多いですが「クリンチェック・ソフトウェア」が販売名称で、米国のアラインテクノロジー社が開発した矯正治療における歯の移動を3次元的にシュミレーションできるアプリケーションのことです。

まずは矯正歯科治療を開始する前に通常通りの必要な検査を行い、検査結果を詳細に分析した上で診断を行い治療計画を立案します。抜歯が必要か非抜歯で可能か、患者さんに適した治療装置はどのようなものがあるかを説明させて頂いたうえで、マウスピース型カスタム矯正歯科装置での治療が可能と判断され、さらに患者さんもこの装置を希望された場合には最初にiTero Elementoを使用して口腔内スキャニングを行います。

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スキャニングしたデータは3次元画像で見ることが可能ですが、今回は治療前検査で撮影した口腔内写真と同じ方向からのデータを抜き取って見てみましょう。左側が口腔内写真、右側がスキャンデータを元に作製された3D歯型模型です。

正面

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右側

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左側

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上顎

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下顎

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今回は、治療前検査で撮影した口腔内写真に一致する方向の画像を取り出しただけですが、実際には3D模型なのであらゆる方向から見ることが可能です。喉の方向から見るとこんな感じです。

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このiTero Elementで採得した口腔内スキャンデータと画像やレントゲン画像を米国のアライン社にインターネット上で送付するとクリンチェックという治療計画のシュミレーションが出来上がってくる訳ですが、ここでいくつか問題があります。

(1)スキャンデータは従来の粘土様歯型剤よりも高精度ではありますが、頭蓋の中でどこに歯が存在しているのかまでは再現されません。つまり、歯列が顔貌の中で平均よりも前方に位置しているのか、後方に位置しているのか、右にズレているのか、左にズレているのか等の情報は含まれておりません。そのため矯正歯科医が従来通りの検査データに基づく診断を行い、矯正治療後のゴール設定を明確にして指示書を記載します。そうしなければ、前歯を前方に傾斜させてはいけない症例なのに前歯を前方傾斜させる計画が出来てきたり、(歯を支えている骨の厚みが足りないのに)歯列の拡大量が現実的でない計画が出来てきてしまいます(テクニック的には敢えて詳細な指示を出さずに出来てきた治療計画と現実とのギャップを知るという手法のあるのですが、専門的になり過ぎるので割愛します)。

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例としてこの患者さんの歯列は頭蓋の中で前後的な位置と傾斜は上図のように存在しています。

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しかし、もっと前方に存在していたり、後方に存在していたり、角度も急傾斜だったり緩やかだったり様々で、それによって治療計画は変わるはずなのですが、どれだけiTero Elementのスキャンデータが精密であっても、これらの情報に関しては皆無です。

正面を見てみましょう。

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この患者さんは、上顎が右に偏位しており下顎が左側に偏位しています。上顎歯列の中心線は右側にズレているのですが、下顎の歯列も右側に傾斜しているので上下の真ん中は合っています。つまり歯は上下ともに右側にズレている形になっている訳ですが、iTero Elementのスキャンデータだけを送付して細かい指示を出さなかったとすれば、(上下の真ん中が合っているため)上下ともに前歯の真ん中が右側にズレたまま歯を並べる計画を立ててしまいます。

 (2)スキャンデータを米国のアライン社にインターネット上で送付するとクリンチェックという治療計画のシュミレーションが出来上がってくると前に記載しましたが、このシュミレーションはアライン社に世界中から集められて蓄積された500万人以上の治療データを基に、クリンチェック上でエンジニアが歯を配列させています。ここで終わりであれば、どこの歯科医院で歯型を取っても同じマウスピースが出来てくるかも知れません。しかし実際には上記のようなことから、矯正歯科を専門的に行う歯科医師が様々な修正・調整を細かく行う必要があります。この調整は矯正歯科医によって異なってくるため、経験値がある矯正歯科医とそうでない歯科医とでは出来上がってくるマウスピースは同じように見えても異なるものが出来てくる訳です。

(3)そもそも論になりますが、どんなに素晴らしいクリンチェックが作れたとしても、それはあくまでもシュミレーションであって実際その通りに歯が動くことを保証するものではありません。何らかの原因で予定通りに動かなかったとき(従来のWIRE矯正でも起こり得ます)、リカバリー出来るかどうかはWIRE矯正での経験年数と透明マウスピース型矯正歯科装置との両方の経験年数が必要です。透明マウスピース型矯正歯科装置にはWIRE矯正とは異なる特有の歯の移動様式があり、それに合わせた診断技術と経験値が必要ですが、現在のところ歯科矯正学の教育過程(歯科大学卒業後、大学の矯正歯科学講座入局が一般的)では、矯正歯科に関する診断や治療技術の大原則は、まずはWIRE矯正を通じて習得します。WIRE矯正の経験がなく透明マウスピース型矯正歯科装置を扱うことは有り得ないように思われるのですが、実際には法的な規制もなくマウスピース型カスタム矯正歯科装置によるトラブルが増えていることも事実なのです。

マウスピース型カスタム矯正歯科装置は、歯を3次元的に包み込んで移動させることができるなど、従来のWIRE矯正よりも優れた部分も多々ある装置です。しかしながら、扱いは非常に難しく矯正歯科を専門に行う歯科医師が十分に綿密な治療計画を立てて、その計画を作成するエンジニアに伝えて初めて優れた装置になります。扱いが難しい装置でありながら、歯科医院にとっては導入がしやすいという特徴があります。歯型さえ取ってデータをアメリカに送れば装置が自動的に出来てきます。正しい診断が出来ているのか、移動計画は適切か?などは関係なく作成してくれます。

クリンチェックについて(その2)に続く

参考:歯を抜く矯正、抜かない矯正

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

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