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2017.10.15更新

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クリンチェックについて(その1)を読まれていない方は、まずこちらの記事から読んで頂いた方がわかりやすいと思います。→ クリンチェックについて(その1)

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今回はクリンチェックの応用編として、実際のケースを基に考え方の一例を記載してみたいと思います。下図は実際の患者さんの口腔内をiTero Elementでスキャンした画像です。

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実際には360度あらゆる方向から見ることが出来ますが、わかりやすいように5カット取り出しています。

 

上下歯列ともに叢生(凸凹)があるうえに、上顎前歯は前方に傾斜しています。単純に凸凹を並べていけば上顎前歯はさらに前方に飛び出てしまいますので、矯正歯科治療を行ううえでは抜歯が必要かもしれません。しかし、そんなに簡単に抜歯することを決定してはいけませんので細かく検討していきます。

 

矯正歯科治療を開始する前に必ず撮影する側貌セファログラムです。上顎前歯が突出しているのがわかります。

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上顎骨のあるポイントから下顎のあるポイントを結んだ線から上顎前歯が14mm離れています。MBLOG_CC_APO

 

理想は赤の両矢印の距離が8mmくらいまでなのですが、この方の場合には(上の歯が出ている割には)口元の突出は多くありません。そのため、9mmくらいまで改善できれば大分良くなることが予想されます。そこで、再度この方の3Dバーチャルモデルを見てみます。

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まずは歯を抜かずに治療可能かどうかを検討します。上図①のラインまで上顎前歯を後退したいところですが、主に真ん中の2本を後退させればよく、左右の2番目の歯は多少前に移動しても許容されます。その他、上顎右側の第一大臼歯が特に手前側に回転してしまっているので、是正することによりSpaceが確保できます。加えて、上顎奥歯の後方移動を行うことができれば、さらにSpaceを獲得できます。下顎に関しては一番後方の左右第二大臼歯が内側(舌側)に倒れ込んでおり、手前の左右第一大臼歯は手前側に回転してしまっているので、奥歯4本を正しい位置付けにすればSpaceが獲得できます。まずは歯を抜かずに治療可能かどうかを検討します。以上のような事項を、クリンチェック前の指示書に明記して、こちらの意図を伝えることが重要です。

処方箋を提出後、早ければ1週間程度で最初の治療シュミレーションが届きますが、そのまま使用できることはまずありません。

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届いたシュミレーションでは上顎奥歯の後方移動を2.5mm程度行うように設定してあります。透明マウスピース型矯正歯科装置の1つであるインビザライン(薬機法対象外)は、従来のWIREを用いた矯正治療と比較して、この奥歯の後方移動が行いやすいとの報告があります。しかし、どれだけ技術が進歩してもデジタル化が導入されても、原理原則が変えられる訳ではありません。

 

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この方の場合、上顎の奥歯を後方移動させるためのSpaceがどのくらいあるのかは、上図の赤い両矢印の距離を計測します。計測によれば、片側につき1〜1.5mm程度の後方移動しか行うことが出来ないと予測されます。シュミレーションでは2.5mm近く後方移動を行っているので仮に移動が可能だったとしても長期に安定しない可能性が高いと思われます。そこでシュミレーションをやり直してもらいます。

 

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赤線を引いてある部分になりますが、上顎奥歯の後方移動量をこの患者さんにとって現実的な数値に変更してもらいます。但し、そのままでは後方移動を減らした分だけ上顎前歯の後退量が減ってしまいますので、IPR(interproximal redution)を加えます。IPRとは、歯と歯の間を少し削って隙間を作る処置のことですが、削るというよりはヤスリをかける感覚に近いもので、当然歯の健康や寿命に問題ない範囲で行います。上図の左側に歯と歯の間に記載してある数字がIPRの量で、.2とは0.2mmを意味し、歯と歯の間で0.2mm、それぞれの歯にとっては両側を0.1mm削るシュミレーション(.3は0.3mm、それぞれの歯にとっては両側を0.15mm)となっています。

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勿論、最初から「この患者さんの奥歯の後方移動許容量は1~1.5mmです」と伝えても良かったのですが、私は敢えて上記のようにしています。「前歯は治療前よりも何mm後退させたい」「上顎奥歯を後方移動させてSpaceを作りたい」は最初に指示しますが、奥歯は何mmしか後退出来ないと指示してしまうと、かなり無理のあるシュミレーションを作成してきたり(その無理がアチコチに散りばめられるため気づきにくくなったりもします)、IPRの箇所や量がメチャクチャ多いシュミレーションが出来てきてしまいます。クリンチェックには実際の患者さんと異なり、歯を支えている歯槽骨も歯周組織も存在しないため3D空間上では何処までも移動可能なので実現不可能な計画だって出来てきてしまいます。敢えて指示しないで出来てきたシュミレーションの後方移動量と現実とのギャップを見ることが必要と考えています。そのギャップが多過ぎる場合や代償的にIPR量が相当増えてしまうようであれば、無理に非抜歯法での治療を行うことよりも、抜歯法での治療を検討した方が良い場合もありますし、従来のWIRE矯正の方が良い可能性もあります。

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さらに言葉のやり取りでは難しい修正は、3Dコントローラーを使用して矯正歯科医が個々の歯を正しい位置付けになるよう修正していきます。

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これ以外にも、奥歯を2本同時に後方移動するのは無理だから1本ずつ移動させるとか、犬歯を含めた前歯6本を同時に後退させるのは無理があるので予め犬歯だけを後方移動させるとか、患者さんごとに移動計画を指示していきます。そうしていると、殆どの場合で5〜10回のクリンチェック修正が必要になります。

 

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殺す気か!ってくらい、クリンチェックの確認を早くしてね、とメールが届きます(^_^;)

 

参考:歯を抜く矯正、抜かない矯正

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2017.10.10更新

透明マウスピース型矯正歯科装置の1つであるインビザライン(薬機法対象外)での治療を検討されている方の中には、WEB上で色々と情報を手にされている方も少なくないと思います。そのような方は「クリンチェック」という単語をよく目にすることになると思います。今回は、この「クリンチェック」のお話です。

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左が治療前で右は治療結果のシュミレーションです(実際の治療結果ではありません)

「クリンチェック」と略して呼ばれることが多いですが「クリンチェック・ソフトウェア」が販売名称で、米国のアラインテクノロジー社が開発した矯正治療における歯の移動を3次元的にシュミレーションできるアプリケーションのことです。

まずは矯正歯科治療を開始する前に通常通りの必要な検査を行い、検査結果を詳細に分析した上で診断を行い治療計画を立案します。抜歯が必要か非抜歯で可能か、患者さんに適した治療装置はどのようなものがあるかを説明させて頂いたうえで、透明マウスピース型矯正歯科装置の1つであるインビザライン(薬機法対象外)での治療が可能と判断され、さらに患者さんもこの装置を希望された場合には最初にiTero Elementoを使用して口腔内スキャニングを行います。

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スキャニングしたデータは3次元画像で見ることが可能ですが、今回は治療前検査で撮影した口腔内写真と同じ方向からのデータを抜き取って見てみましょう。左側が口腔内写真、右側がスキャンデータを元に作製された3D歯型模型です。

正面

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右側

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左側

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上顎

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下顎

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今回は、治療前検査で撮影した口腔内写真に一致する方向の画像を取り出しただけですが、実際には3D模型なのであらゆる方向から見ることが可能です。喉の方向から見るとこんな感じです。

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このiTero Elementで採得した口腔内スキャンデータと画像やレントゲン画像を米国のアライン社にインターネット上で送付するとクリンチェックという治療計画のシュミレーションが出来上がってくる訳ですが、ここでいくつか問題があります。

(1)スキャンデータは従来の粘土様歯型剤よりも高精度ではありますが、頭蓋の中でどこに歯が存在しているのかまでは再現されません。つまり、歯列が顔貌の中で平均よりも前方に位置しているのか、後方に位置しているのか、右にズレているのか、左にズレているのか等の情報は含まれておりません。そのため矯正歯科医が従来通りの検査データに基づく診断を行い、矯正治療後のゴール設定を明確にして指示書を記載します。そうしなければ、前歯を前方に傾斜させてはいけない症例なのに前歯を前方傾斜させる計画が出来てきたり、(歯を支えている骨の厚みが足りないのに)歯列の拡大量が現実的でない計画が出来てきてしまいます(テクニック的には敢えて詳細な指示を出さずに出来てきた治療計画と現実とのギャップを知るという手法のあるのですが、専門的になり過ぎるので割愛します)。

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例としてこの患者さんの歯列は頭蓋の中で前後的な位置と傾斜は上図のように存在しています。

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しかし、もっと前方に存在していたり、後方に存在していたり、角度も急傾斜だったり緩やかだったり様々で、それによって治療計画は変わるはずなのですが、どれだけiTero Elementのスキャンデータが精密であっても、これらの情報に関しては皆無です。

正面を見てみましょう。

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この患者さんは、上顎が右に偏位しており下顎が左側に偏位しています。上顎歯列の中心線は右側にズレているのですが、下顎の歯列も右側に傾斜しているので上下の真ん中は合っています。つまり歯は上下ともに右側にズレている形になっている訳ですが、iTero Elementのスキャンデータだけを送付して細かい指示を出さなかったとすれば、(上下の真ん中が合っているため)上下ともに前歯の真ん中が右側にズレたまま歯を並べる計画を立ててしまいます。

 (2)スキャンデータを米国のアライン社にインターネット上で送付するとクリンチェックという治療計画のシュミレーションが出来上がってくると前に記載しましたが、このシュミレーションはアライン社に世界中から集められて蓄積された500万人以上の治療データを基に、クリンチェック上でエンジニアが歯を配列させています。ここで終わりであれば、どこの歯科医院で歯型を取っても同じマウスピースが出来てくるかも知れません。しかし実際には上記のようなことから、矯正歯科を専門的に行う歯科医師が様々な修正・調整を細かく行う必要があります。この調整は矯正歯科医によって異なってくるため、経験値がある矯正歯科医とそうでない歯科医とでは出来上がってくるマウスピースは同じように見えても異なるものが出来てくる訳です。

(3)そもそも論になりますが、どんなに素晴らしいクリンチェックが作れたとしても、それはあくまでもシュミレーションであって実際その通りに歯が動くことを保証するものではありません。何らかの原因で予定通りに動かなかったとき(従来のWIRE矯正でも起こり得ます)、リカバリー出来るかどうかはWIRE矯正での経験年数と透明マウスピース型矯正歯科装置との両方の経験年数が必要です。透明マウスピース型矯正歯科装置にはWIRE矯正とは異なる特有の歯の移動様式があり、それに合わせた診断技術と経験値が必要ですが、現在のところ歯科矯正学の教育過程(歯科大学卒業後、大学の矯正歯科学講座入局が一般的)では、矯正歯科に関する診断や治療技術の大原則は、まずはWIRE矯正を通じて習得します。WIRE矯正の経験がなく透明マウスピース型矯正歯科装置を扱うことは有り得ないように思われるのですが、実際には法的な規制もなく透明マウスピース型矯正歯科装置によるトラブルが増えていることも事実なのです。

インビザライン(薬機法対象外)などに代表される透明マウスピース型矯正歯科装置は、歯を3次元的に包み込んで移動させることができるなど、従来のWIRE矯正よりも優れた部分も多々ある装置です。しかしながら、扱いは非常に難しく矯正歯科を専門に行う歯科医師が十分に綿密な治療計画を立てて、その計画を作成するエンジニアに伝えて初めて優れた装置になります。扱いが難しい装置でありながら、歯科医院にとっては導入がしやすいという特徴があります。歯型さえ取ってデータをアメリカに送れば装置が自動的に出来てきます。正しい診断が出来ているのか、移動計画は適切か?などは関係なく作成してくれます。

クリンチェックについて(その2)に続く

参考:歯を抜く矯正、抜かない矯正

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

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