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クリンチェックについて(その1)を読まれていない方は、まずこちらの記事から読んで頂いた方がわかりやすいと思います。→ クリンチェックについて(その1)
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今回はクリンチェックの応用編として、実際のケースを基に考え方の一例を記載してみたいと思います。下図は実際の患者さんの口腔内をiTero Elementでスキャンした画像です。
実際には360度あらゆる方向から見ることが出来ますが、わかりやすいように5カット取り出しています。
上下歯列ともに叢生(凸凹)があるうえに、上顎前歯は前方に傾斜しています。単純に凸凹を並べていけば上顎前歯はさらに前方に飛び出てしまいますので、矯正歯科治療を行ううえでは抜歯が必要かもしれません。しかし、そんなに簡単に抜歯することを決定してはいけませんので細かく検討していきます。
矯正歯科治療を開始する前に必ず撮影する側貌セファログラムです。上顎前歯が突出しているのがわかります。
上顎骨のあるポイントから下顎のあるポイントを結んだ線から上顎前歯が14mm離れています。
理想は赤の両矢印の距離が8mmくらいまでなのですが、この方の場合には(上の歯が出ている割には)口元の突出は多くありません。そのため、9mmくらいまで改善できれば大分良くなることが予想されます。そこで、再度この方の3Dバーチャルモデルを見てみます。
まずは歯を抜かずに治療可能かどうかを検討します。上図①のラインまで上顎前歯を後退したいところですが、主に真ん中の2本を後退させればよく、左右の2番目の歯は多少前に移動しても許容されます。その他、上顎右側の第一大臼歯が特に手前側に回転してしまっているので、是正することによりSpaceが確保できます。加えて、上顎奥歯の後方移動を行うことができれば、さらにSpaceを獲得できます。下顎に関しては一番後方の左右第二大臼歯が内側(舌側)に倒れ込んでおり、手前の左右第一大臼歯は手前側に回転してしまっているので、奥歯4本を正しい位置付けにすればSpaceが獲得できます。まずは歯を抜かずに治療可能かどうかを検討します。以上のような事項を、クリンチェック前の指示書に明記して、こちらの意図を伝えることが重要です。
処方箋を提出後、早ければ1週間程度で最初の治療シュミレーションが届きますが、そのまま使用できることはまずありません。
届いたシュミレーションでは上顎奥歯の後方移動を2.5mm程度行うように設定してあります。マウスピース型カスタム矯正歯科装置は、従来のWIREを用いた矯正治療と比較して、この奥歯の後方移動が行いやすいとの報告があります。しかし、どれだけ技術が進歩してもデジタル化が導入されても、原理原則が変えられる訳ではありません。
この方の場合、上顎の奥歯を後方移動させるためのSpaceがどのくらいあるのかは、上図の赤い両矢印の距離を計測します。計測によれば、片側につき1〜1.5mm程度の後方移動しか行うことが出来ないと予測されます。シュミレーションでは2.5mm近く後方移動を行っているので仮に移動が可能だったとしても長期に安定しない可能性が高いと思われます。そこでシュミレーションをやり直してもらいます。
赤線を引いてある部分になりますが、上顎奥歯の後方移動量をこの患者さんにとって現実的な数値に変更してもらいます。但し、そのままでは後方移動を減らした分だけ上顎前歯の後退量が減ってしまいますので、IPR(interproximal redution)を加えます。IPRとは、歯と歯の間を少し削って隙間を作る処置のことですが、削るというよりはヤスリをかける感覚に近いもので、当然歯の健康や寿命に問題ない範囲で行います。上図の左側に歯と歯の間に記載してある数字がIPRの量で、.2とは0.2mmを意味し、歯と歯の間で0.2mm、それぞれの歯にとっては両側を0.1mm削るシュミレーション(.3は0.3mm、それぞれの歯にとっては両側を0.15mm)となっています。
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勿論、最初から「この患者さんの奥歯の後方移動許容量は1~1.5mmです」と伝えても良かったのですが、私は敢えて上記のようにしています。「前歯は治療前よりも何mm後退させたい」「上顎奥歯を後方移動させてSpaceを作りたい」は最初に指示しますが、奥歯は何mmしか後退出来ないと指示してしまうと、かなり無理のあるシュミレーションを作成してきたり(その無理がアチコチに散りばめられるため気づきにくくなったりもします)、IPRの箇所や量がメチャクチャ多いシュミレーションが出来てきてしまいます。クリンチェックには実際の患者さんと異なり、歯を支えている歯槽骨も歯周組織も存在しないため3D空間上では何処までも移動可能なので実現不可能な計画だって出来てきてしまいます。敢えて指示しないで出来てきたシュミレーションの後方移動量と現実とのギャップを見ることが必要と考えています。そのギャップが多過ぎる場合や代償的にIPR量が相当増えてしまうようであれば、無理に非抜歯法での治療を行うことよりも、抜歯法での治療を検討した方が良い場合もありますし、従来のWIRE矯正の方が良い可能性もあります。
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さらに言葉のやり取りでは難しい修正は、3Dコントローラーを使用して矯正歯科医が個々の歯を正しい位置付けになるよう修正していきます。
これ以外にも、奥歯を2本同時に後方移動するのは無理だから1本ずつ移動させるとか、犬歯を含めた前歯6本を同時に後退させるのは無理があるので予め犬歯だけを後方移動させるとか、患者さんごとに移動計画を指示していきます。そうしていると、殆どの場合で5〜10回のクリンチェック修正が必要になります。
殺す気か!ってくらい、クリンチェックの確認を早くしてね、とメールが届きます(^_^;)
参考:歯を抜く矯正、抜かない矯正