三田矯正歯科ブログ

2023.04.20更新

前回、前々回、前々前回の続きです。


近年、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載された
『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』の中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されていますので説明しています。

(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか
   →成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する

前々回の記事で解説済み

(2)成長期の骨格性下顎前突にチンキャップは推奨されるか
   →推奨しない

前回の記事で解説済み

 

今回は、

(3)成長期の骨格性下顎前突に機能的矯正装置は推奨されるか

   →弱く推奨する

 

理由(抜粋&一般の方にわかりやすいように書き換え)
短期間(治療開始約1年)では、上顎骨の前方移動、下顎骨の後方移動といった骨格系の改善効果とそれに伴う横顔の改善効果がある。しかし、下顎骨成長終了時の治療効果についてエビデンスが欠如している現時点では、治療する/しないの選択において患者・家族の価値観や好みによるばらつきが大きくなると考えられ、弱い推奨とする。

【解説】
機能的矯正装置とは、筋肉の力や噛む力を利用した矯正装置です。上顎骨の劣成長や下顎骨過成長など、骨格自体に問題がある場合には効果はでません。単に、下顎を前に出して噛む癖がある場合や、上顎前歯が後方傾斜しているため正しい位置で噛むことができず、下顎を前に出さないと噛めないような場合などが該当します。

つまり、反対咬合になっている理由を調べずに機能的装置を使用することはない筈なのですが、現実的には矯正のための検査も行わずに下の画像のような既製品の装置を購入して安易に使用してしまう場合も少なくないようです。

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誤解があるといけないのですが、この装置を否定するものではありません。正しい診断の元(なぜ骨格に問題がないのに反対咬合になっているかの原因を正しく特定できているか?)で、この装置の使用がベストであると判断した明確な根拠があれば良いと思います。但し、このような装置は比較的新しいものなので、この装置を使用した患者で長期安定しているかのデータがまだ多くはありません。上記の『エビデンスが欠如している現時点』とは、そういうことも意味しています。

当院では今のところ使用しておりません。

 

思いの外まとまらず4回に跨がってしまいましたが『成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン』の解説は今回で終了です。

 

成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン(その1)を読む

成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン(その2)を読む

成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン(その3)を読む

 

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2023.03.15更新

前回、前々回の続きです。


近年、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載された
『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』の中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されていますので説明しています。

(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか
   →成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する

前回の記事で解説済み

 

今回は、

(2)成長期の骨格性下顎前突にチンキャップは推奨されるか
   推奨しない


理由(抜粋&一般の方にわかりやすいように書き換え)
エビデンスの質が低く、とくに骨格系の治療効果については不確実。さらに下顎骨成長終了時の治療効果についてエビデンスが欠如している現時点では、治療する/しないの選択において患者・家族の価値観や好みによるばらつきが大きくなると考えられ、推奨の方向を決めかねるため。

【解説】
前回も記載した通り、残念ながら下顎骨の過成長を止める方法は存在しません(過去には止めようとしていた時代もありましたが、止められないことがわかってきたため、下顎骨の過剰な成長を止める目的の治療装置は使用されなくなっています)。過去には、下の画像のようなチンキャップという装置を使用していた時代もありました。私が最後にこの装置を患者さんに使用したのは、平成2年頃大学病院の矯正歯科勤務時代です。

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この頃からチンキャップの効果に関しては否定的な研究結果も出ていましたが、この装置に強い拘りを持たれていたベテランの矯正歯科医も多数おりました。上顎骨後退型には上顎骨前方牽引装置の使用で治療効果が出る方も少なくありませんが、下顎骨自体が長い成長期の患者さんに対して下顎骨の成長を無理に押さえつけようとしても(成長力は変えられないので)、治らない、または一度症状が軽減しても装置の使用中止とともに再発する場合が多いということです。また、効果が出たように見えても実際には 1)下顎骨の成長方向が下方に向かうだけ 2)下顎骨が左右どちらかに偏位する(変えられない成長力を無理に押さえつけるため顎が横に曲がる) 3)顎関節が損傷を受ける の、3つの代表的な副作用が生じる可能性が高いことがわかってきたため、チンキャップの使用を続ける矯正歯科医は減少しています。

 

【成長期骨格性下顎前突にチンキャップを使用した場合のシミュレーション】

成長期骨格性下顎前突にチンキャップを使用した場合に、一部改善が見られる方はどのような場合でしょう。それは、下顎骨の成長がチンキャップの影響で下方に向かった場合と推測されます。下顎骨の長さが同じでも、下顎骨が下方に位置することにより下顎骨が後方に位置することになります。

例えば、下図のような骨格性下顎前突の方がいたとしましょう。

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下顎が理想値よりも10mm程度前方にありますが、前述の通り下顎骨自体の長さは短くできません(外科手術を除く)。このような方にチンキャップを用いて治ったように思えたとしても、現実的には以下のような治り方( カモフラージュの仕方)となります。

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わかりにくでしょうか。それでは時計で例えてみましょう。

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長針の長さは同じです。

それでも10時20分と10時25分では、基準線(青線)からの距離(赤線)は長くなります。チンキャップで効果が出て見える場合でも時計の長針と同じで、実際には治っている訳ではありません。単にカモフラージュしているだけになります。特に面長の人にこのような治療をしてしまえば、より面長になってしまいます。

 

【当院での考え方】

では、低年齢で下顎骨自体が長いことが判明した場合、どうすれば良いのか?大きく分ければ以下の2択になると思います。

(A)上記を踏まえたうえで何もせず、下顎骨が伸びきった頃に①矯正治療単独で可能か(抜歯が必要か不要か) ②外科矯正(下顎骨離断手術など)かの判断を行う

(B)言い方は悪いが、やるだけやってみる

 

例として、7歳で来院された男の子の横顔レントゲン写真を分析します。

seityouyosoku1

一見、それほど重症には見えませんが、すでに5mm程度下顎骨が理想値よりも前に位置していることがわかりました。男の子の場合で言えば概ね中学校2年後半頃から身長がグッと伸びるので、下顎骨も長くなります。専用のソフトで成長期が終わる頃にどうなっているかのシュミレーションを出してみると下記の通りです。

seityouyosoku2

緑色のようになると予測している訳です。何度か記載した通り、下顎骨の成長を止めることはできないので、矯正治療を行なってもこうなってしまう可能性が高いということです。

低年齢の場合はどうでしょう?

上記の(A)放置でなく(B)のやるだけやってみる の選択をするのであれば、下顎骨の過成長を止めることはできないことがわかっているので、1つ前の記事同様に上顎骨前方牽引を行うしかありません。

つまり、長い方の下顎に合わせて上顎を前に出すことになるのですが、下図のように人間の顔はある点を中心に放射線状に発育します。下顎が伸びる前に上顎骨を先に成長させてしまい、その後に上下の前歯を比較的深めに噛ませる(歯の移動で行う)ことにより、下顎骨が少しでも過成長しづらい環境を作るということです。

seityouyosoku3

上顎骨前方牽引の治療目標は下図のような感じです。

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白く写っているのが骨で、水色のラインが上顎骨前方牽引終了時の予測です。下顎も2年間で成長していますが、それ以上に上顎骨を一旦前方に牽引しています。

治療前後の重ね合わせ。

seityouyosoku5

ここからが大切ですが、注意点です。

1)今回、日本矯正歯科学会が下顎骨自体が長い方に対しての早期治療を推奨しないとしたように、必ずしも効果が出るとは限らない。一旦効果が出ても、成長に伴い下顎が結局は過成長してしまう場合が多い。

2)年齢が上がれば上がるほど、下顎が前に出てきているため、上顎骨前方牽引では追いつかないか、効果が出たとしても上下顎前突の状態になるのはやむを得ない。

3)2)の理由で、外科手術は回避できても、(上下顎前突をカモフラージュするため)上下左右で4本の抜歯を行い、その隙間を利用して上下前歯を後退させる治療が必要になる。

 

上記のことをよく理解して頂いたうえで、早期治療を行うか第2次成長期終了まで経過観察するか慎重に検討して頂きます。

 

またしても長くなってしまったので、続きは次回。

 

参考:合わせて読んで頂くと理解が深まるかと思います。

成長期反対咬合(受け口)の考え方 - 1

成長期反対咬合(受け口)の考え方 - 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2023.02.19更新

前回の続きです。
近年、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載された
『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』の中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されていますので説明しています。


(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか
→成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する


理由(抜粋&一般の方にわかりやすいように書き換え)
骨格的な、歯の移動による改善効果があるが、観察期間が長くなるにつれ、
それらの改善効果は小さくなる。最終的に、上顎前方牽引装置による治療群では外科的矯正治療が必要と判断される患者の数が対照群と比べ減少するものの、外科的矯正治療を回避できない患者は治療群でも一定数存在する。このように、患者によって治療を受けることの利益と負担のバランスにばらつきがある可能性があるため弱い推奨とした。


【解説】
残念ながら下顎骨の過成長を止める方法は存在しません(過去には止めようとしていた時代もありましたが、止められないことがわかってきたため、下顎骨の過剰な成長を止める目的の治療装置は使用されなくなっています)。上顎骨の成長が悪いために反対咬合になっている場合には、成長期であれば上顎骨自体の位置を改善することが可能な場合があります。
最適な時期に上顎骨の前方牽引を行うことにより、反対咬合の改善が得られ、その後の第二次成長期終了後でも安定している状態の場合もありますが、一旦は効果が得られ、尚且つ治療開始時には上顎後退型で下顎骨が長かった訳ではないのに、第二次成長期に下顎骨が過成長を起こしてしまう場合も一定数いるということになります。

【使用する装置】
上顎骨前方牽引装置として、当院ではフェイスクリブ(製造業者:Great Lakes Dental Technologies, LTD. 国内ではJM Ortho社が取り扱い)を使用しています。
お口の中(上顎)には下の画像のような装置を装着。奥歯の金具に矯正用の小さな輪ゴムを引っ掛けます。幼稚園の年長さんでも、慣れれば自分一人で引っ掛けることが出来るようになります。

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お顔には、下の画像のようなフレームを装着します。上顎奥歯に引っ掛けたゴムを引っ張ってフレームにも引っ掛けます。ゴムを外せば、フレームも外れる仕組みです。やはり、慣れれば幼稚園の年長さんでも、自分一人で引っ掛けることが出来るようになります。

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【効果例1】
9歳8か月の女子。反対咬合を気にされて来院されました。レントゲン分析の結果、下顎骨の長さに問題はなく、上顎骨の成長が悪い、上顎骨後方型の骨格性反対咬合であることがわかりました。

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フェイスクリブの使用により反対咬合は改善。その後、身長が伸びている間は、下顎の位置は変化する可能性があるので凸凹の治療などは慌てては行わず、身長の伸びがある程度止まるまで待ちます。女子で14歳になれば、その後に下顎が伸びてくる心配は殆ど無いので、本格矯正歯科治療開始可能となります。

【効果例2】
6歳10か月の女子。同様に反対咬合を気にされて来院されました。レントゲン分析の結果、下顎骨の長さに問題はなく、上顎骨の成長が悪い、上顎骨後方型の骨格性反対咬合であることがわかりました。

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フェイスクリブの使用により反対咬合は改善。効果例1の方と同じように、すぐに凸凹の治療は行わず、定期的に観察を行いました。小学校5年生頃までは問題は生じませんでしたが、その後、中学受験のためしばらく来院されなくなりました。中学受験後来院されると、下顎自体が1年の間に急速に伸びてしまっていました。
この場合、もしも1年間来院を休まなければ、下顎骨の成長を止められたかというと、そういうことではありません。止められないのです。
効果例1の方よりも早くから治療を開始し、一旦は改善していたのですが、こういうことは起こり得るうえに、予測することは困難です。

今までは、ガイドライン自体が存在しなかったのですが、ようやく『EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドライン』に、成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか→成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する
という結論が出たことになります。

つまり、効果が出る方がいらっしゃる以上は推奨しない訳にはいかないが、なかには頑張って使用して頂いても効果が出なかったり、一旦効果が出ても、数年後に悪くなってしまう方も一定数は生じてしまうため、弱い推奨に留めざるを得ないということになります。

当院では、上記のようなことをよく説明させて頂きご納得頂いたうえで、ご希望されれば治療をさせて頂いております。

因みに、効果例2の方を矯正歯科のみ(外科手術を伴わない)で治療を行いました。growthkyouseinomi

前歯の反対咬合は改善しましたが、下顎骨自体の位置は矯正歯科治療単独では改善不可です。できれば、下顎骨自体の長さから改善する外科矯正が望ましいのですが、ボーダーラインケースであったことと、ご希望を伺ったうえで、矯正歯科治療のみで行いました。

長くなってしまったので、続きは次回。

 

参考:合わせて読んで頂くと理解が深まるかと思います。

成長期反対咬合(受け口)の考え方 - 1

成長期反対咬合(受け口)の考え方 - 2

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2023.01.31更新

2年以上も更新が滞ってしまいました。
以前、『成長期反対咬合(受け口)の考え方−その1』『成長期反対咬合(受け口)の考え方−その2』という記事を掲載しましたが、更新をサボっている間に、『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』というものが、日本矯正歯科学会を中心となって作成され、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載されました。

その中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されています。

 

(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか

(2)成長期の骨格性下顎前突にチンキャップは推奨されるか

(3)成長期の骨格性下顎前突に機能的矯正装置は推奨されるか

 

次回以降で、それぞれ説明していいこうと思います。

・・・・・・・・

以下、余談。

長かった歯科医師会の専務理事というお役目も、あと5ヶ月。

お役御免になったら、このBLOGも、もう少し更新できるかな〜?

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2020.10.06更新

透明マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置の1つであるインビザライン治療は、これまで主に永久歯が生え揃う時期の矯正治療(本格治療:第2期治療)で使用していましたが、目覚ましい技術進歩により、2019年3月から乳歯と永久歯が混在する混合歯列期の矯正治療(早期治療:第1期治療)からの使用が可能になりました。

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混合歯列期の矯正治療(早期治療:第1期治療)でよく行われる治療として、歯列の拡大と前歯の整列があります。従来の矯正法では、これらを別々の時期に2度に分けて行う必要がありました。
インビザラインファースト(透明マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置の1つ)の場合、「歯列の拡大」と「前歯の整列」を同時に行うことができるのが大きな特徴です。これにより、矯正治療の期間の短縮や、来院回数を減らすことが可能になります。

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【その他の利点として】
※透明で目立たない
※取り外しができるので、普段通り食事ができる
※歯磨きのときに取り外しができるので、虫歯のリスクを下げることができる
※従来の針金や凸凹の多いブラケットを使用しないため、矯正装置が原因となる口内炎の発生リスクが少ない。
※同様に、転んだりボールが顔に当たったりしても矯正装置によるケガの心配が少ない。
※痛みを伴う破損が少ない
※通院回数が少ない

【注意点として】
※1日20時間以上の装着が必要
例として、食事の後に装着し忘れるなどして1日20時間以上の装着ができないと、矯正治療期間が延びたり矯正結果に悪影響がでます。

【インビザラインファースト(透明マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置の1つ)の適応条件】
※下記1.~3.すべての条件が必要です。
1.第一大臼歯が萌出している
2.切歯のうち少なくとも2歯が2/3以上萌出している
3.少なくとも3/4顎に乳歯(C、D、E)または未萌出の永久歯 (3、4、5)が2歯以上ある

※歯並びの状態によっては、従来の装置をおすすめする場合もあります。

※従来の装置と同様に、早期治療:1期治療だけで治療が完了することは殆ど無く、永久歯列完成後に本格治療:第2期治療が必要になります。

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※骨格性反対咬合の治療や上顎前突の治療では、インビザラインファースト(透明マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置の1つ)以外にも顎外固定装置を使用する場合があります。その場合、費用はインビザラインファースト(透明マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置の1つ)の費用に含まれます。

治療費はこちら(矯正治療料金のご案内)

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2020.01.06更新

所属している日本臨床矯正歯科医会神奈川支部の広報委員会ではニューズレターを発行しているのですが、今回たまたま私が担当で原稿を書きました。せっかくなので、下記に貼り付けておきます。

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矯正歯科治療を始めるにあたって、多くの患者さんが不安を感じるのが治療中の痛みについてだと思います。
矯正歯科治療による痛みには主に2種類あります。


まずは装置が付いたことで、矯正歯科装置が頬や唇の内側あるいは舌とすれて、粘膜に傷や口内炎ができることに伴う痛みです。矯正歯科治療を始めて間もない頃はお口の中が装置に慣れていないため、痛みを強く感じやすいですが、装置には徐々に慣れてきます。また、痛みが強い時などには、リリーフワックス(ホワイトワックス、ホワイトシリコンなど)を矯正歯科医院でわけてもらって、粘膜に当たっている装置の上に張り付けて保護するなどの対処が可能です。


次に歯が動くことによる痛みがあります。これは多くの場合、はじめて矯正歯科装置をつけたときや、毎月の通院でワイヤーを調整した後に起こる痛みで、長い人だと1週間くらい続くこともありますが、ほとんどの場合3、4日間で消失します。痛みの程度は個人差が大きく、締めつけられるように痛くて食事をとることも難しいという人もいれば、ほとんど痛みを感じない人もいます。痛みが強いときは、噛み応えのある食べ物は食べにくいので、柔らかめのご飯や煮物、スープや栄養ドリンクなどを召し上がっていただくと良いでしょう。


このように矯正歯科治療には大なり小なりの痛みがつきものですが、歯が動いていく過程での痛みなので、少しの我慢の先には安定した綺麗な歯並びと良い咬み合せが待っているのです。

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2019.06.05更新

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誤解を生じないよう、『成長期反対咬合(受け口)の考え方 - その1』を先に読まれてから、この記事を読んで頂ければ幸いです。

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 前回、一見同じように見える反対咬合でも、

(A)骨に問題があるか (B)歯だけの問題か。

(A)の骨に問題がある場合にも(a)下顎の成長が強い場合と(b)上顎の成長が悪い場合に分けられ、(a)と(b)の混在型もある。

(B)の歯に問題がある場合にも(c)下顎の前歯が前方に傾斜している場合と(d)上顎の前歯が後方に傾斜している場合に分けられ、(c)と(d)の混在型がある。

大切なことは、上記(a)〜(d)のどこに問題があるかによって、最適な治療開始時期も使用する矯正装置の種類も予測される治療期間も異なってくる。

ということをお伝えしました。

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それぞれに対して、もう少し解説していこうと思います。

(B)の歯だけの問題

単に前歯の傾きだけによる受け口であれば、全て大人の歯に生え変わってからでも治療は可能です。しかし、最初は前歯の傾きだけの問題であっても受け口を放置することで骨格的な反対咬合に移行してしまう場合もありますので、成長期に反対咬合の改善を行っておくほうがベターです。

(b)上顎の成長が悪い場合

上顎の骨は、概ね8〜10歳くらいまでに80%以上の成長が終了してしまいます。この時期を過ぎてしまうと上顎はもう大きくならないので、それより以前に上顎骨前方牽引装置を主に夜間使用して上顎を引っ張り出す治療が必要になります。この時期までに前歯が逆に噛んでいると、上顎骨が成長するべき時期に成長できず、第二次成長期つまり身長が伸びる時期に下顎も伸びるため、上顎骨と下顎骨の前後的ズレは悪化してしまう傾向にあります。

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学校の授業で習ったと思いますが、スキャモンの発育曲線です。人間の臓器の成長は大まかに分けて4種類に分類され、上顎骨は神経型に近い発育をします。下顎骨は一般型に近い形で発育します。同じお顔の中にある骨でも、上顎と下顎では発育する時期が全く異なるということです。

(a)下顎の成長が強い場合

下顎の骨は、身長が伸びる時期に伴い大きくなります。男子では概ね中学校2年生〜高校生、女子では小学校高学年から中学校1年生の頃です。すなわち、男子と女子では、下顎が大きくなる時期が違うことに注意が必要です。

私が平成元年に大学病院の矯正科に入局した当時は、下顎骨の成長が強い成長期のお子様たちに、『チンキャップ』という顎あてを使用してもらいましたが、現在この『チンキャップ』に対しては否定的な見解が殆どです。身長が伸びている人を頭の上から押さえても押さえきれないのと一緒で、下顎が伸びてしまう人に顎あてを用いても、(1)一時的に治ってもいずれまた下顎が伸びてしまう(2)成長する力は変わらないので、無理に抑えれば下顎が側方に偏位する(顎が歪む)(3)下顎の関節を圧迫し続けるため顎関節症を引き起こしやすい などの問題が起こりやすいだけで成長は止められないことがわかってきたため、『チンキャップ』などを用いた下顎の成長を押さえ込むという治療は殆ど行われなくなっています。

それではどうするのか?

まだ成長期であれば、下顎の成長が強い場合でも上顎骨の前方牽引を行います。長い方の下顎に合わせて上顎を成長させるのでナンセンスに感じるかもですが、他に方法がありません。先に上顎を成長させてしまい、上の前歯が下の前歯を正常に覆うような状態を作り、下顎が過成長を起こしにくい状態にします。あくまでも下顎が伸びにくい環境を作るだけですので、「成長しにくい状態=成長しない」ではありません。成長期初期に上顎骨の前方牽引を十分に行えたとしても、第二次成長期に下顎が過成長してしまう場合もあります。そして、短いものは長く出来る可能性がありますが、一度長くなってしまった骨は外科手術をする以外には短くすることが出来ません。つまり、成長期も後半になればなるほど長くなった下顎に対して上顎をより前方牽引しないといけなくなるので、上下の顎骨とも出た形になってしまうか、上顎を追いつかせることが出来なくなり反対咬合が治らなくなります。前者の場合には、上下左右1本ずつ計4本の歯を抜歯して上下前歯を後退させることにより、上下顎骨自体の突出を目立たなくするカモフラージュ治療となります。後者の場合には、歯の移動だけでも許容範囲であれば、上顎前歯を前方に傾斜させ、下顎前歯は後方に傾斜させて反対咬合を治す手段もありますが、下顎自体の突出感は改善できず、前歯も骨に対して無理な傾斜角度になるため、長期的に安定することは難しいです。根本的に治すのであれば問題がある下顎骨自体を短くする外科手術を用いた矯正歯科治療となります。

 

治療の開始は早い方が良いの?

土台となる顎の骨に対する治療は早く始めた方が良い場合が多いのですが、全ての永久歯が生え揃ってから行う本格矯正歯科治療の開始時期は慎重に検討する必要があります。骨の成長が止まっていない間は、下顎の位置が変わる可能性がありますので、歯の移動中に土台がズレてしまうと歯の移動をやり直さなければいけなくなります。つまり、早く本格治療を始めたから早く終わるわけではなく、下顎の成長が残っている間は歯に装着した装置が外せなくなってしまい、早く始めたが為に長期間の本格矯正治療のための装置装着を余儀無くされる場合があります。骨格性反対咬合の方の本格矯正歯科治療は成長が止まってから行うべきです。

そのため考えないといけないこと

3歳児健診などで反対咬合の指摘を受けて当院に初診相談で来院される方がいらっしゃいます。数年前から必ずお伝えしていることがあります。仮に骨格性の問題があって治療を早く開始した方が良い場合でも、治療の終わりは15〜18歳になる可能性があります(経過観察期間も含む)。そのときに院長が何歳になっているかも計算して、医院選びの参考にしてくださいね(^^)

 

 

 

 

 

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2019.05.30更新

 例えば下の写真のような反対咬合のお子様を例に話をします。

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保護者の方が、このお子様の治療を考えたときに

(1)矯正歯科専門の歯科医院に相談する

(2)かかりつけの歯科医院など一般の歯科医院に相談する

(3)矯正歯科治療経験者のお友達に相談する

(4)保健所などの無料歯科相談を利用する

(5)インターネットで情報を調べる

などが考えられますが、相談する先々で言われることが違うことが少なくないために、混乱してしまう方が多いのです。

 

ほっとくとどうなるの?

ある人には「自然に治る場合もあります」と言われ、ある人には「早く治さないと顎を切ることになります」と言われてしまうこともあります。

どうやって治すの?

「手で押せば治る」とか、「アイスクリームのヘラで押せ」とか、「取り外しの出来る装置だ」とか「取り外しの出来ない装置だ」とか「前歯に金具付けるよ」とか「寝るときの帽子みたいな装置をかぶるよ」とか

いつから治すの?

「今すぐ」とか「全て大人の歯になってから」とか「様子見て決めましょう」とか

こんなふうに相談に行く先々で色々と違うことを聞かされて混乱してしまう方が少なくないようです。

一見同じように見える反対咬合でも、どこに問題があるかで分類されます。大きく2つに分けるとすれば、(A)骨に問題がある(B)歯だけの問題か。(A)の骨に問題がある場合にも(a)下顎の成長が強い場合と(b)顎の成長が悪い場合に分けられます。もちろん、(a)と(b)の混在型もあるわけです。

(B)の歯に問題がある場合にも(c)下顎の前歯が前方に傾斜している場合(d)顎の前歯が後方に傾斜している場合に分けられます。やはり、(c)と(d)の混在型があります。さらには、(A)と(B)の混在など、複雑な状態になっている場合もあります。

大切なことは、上記(a)〜(d)のどこに問題があるかによって、最適な治療開始時期も使用する矯正装置の種類も予測される治療期間も異なってくるということです。そして、どこに問題があるかを知るためには横顔のレントゲン写真:頭部X線規格写真(セファログラム)の検査が必要です。さらには、この頭部X線規格写真(セファログラム)の検査は冒頭の(3)(4)(5)では行うことが出来ません。

参考:安心して治療を受けていただくための6つの指針

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撮影をしただけでは何もわかりませんので、計測・分析を行います。

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この方の場合は、上顎の骨が若干成長が悪く、下の前歯は前方に傾斜していることがわかりましたので、原因に対する最適な装置を選択して治療をしていくことになります。

もしも計測・分析を行わないで下顎自体が長い患者さんに対して上の前歯を前方に傾斜させるような治療を行えば、悪い方に良い方を合わせる治療となってしまいますので、そのようなことがないように治療前の検査とプランニングが非常に重要となります。

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当院の院内勉強会で使用しているスライドの一部。何かから引用したはずだが、何から引用したのかは失念しました(;^_^A

 そして、(A)骨に問題がある場合 と(B)歯だけの問題の場合 では、一般的に(A)の治療が困難であり、(A)の中でも(a)下顎の成長が悪い場合 と (b)上顎の成長が悪い場合とでは、(a)の治療が困難になります。

また、上顎の骨と下顎の骨では種類が違うため、それぞれ発育する時期が違うので注意が必要です。

 

成長期反対咬合(受け口)の考え方 - その2に続く

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2018.02.01更新

従来、矯正装置(ブラケット)の装着方法は、1歯1歯患者さんの歯を見ながら直接接着する方法=DBS(ダイレクトボンディングシステム)でした。歯の軸(歯根の方向)を考えながら正確な位置付けをするには、患者さんが1時間近くも開口状態でいる必要があり負担が大きくなってしまいます。また奥歯では歯の正面から歯の軸を見ることは不可能で、ある程度勘に頼った装着法でありました。

 

一方IDBシステム(インダイレクトボンディングシステム)は患者さんの歯の模型を用いて多角的に観察し、レントゲンなどで歯の根の方向も確認して位置付けをしていきます。模型上でブラケットを仮着していくため何度でもやり直すことが出来るため、より正確な位置付けが可能です。

MOOKB001

レントゲン写真で歯の根の方向も確認しながら装置(ブラケット)を装着する位置を決め、模型にラインを引いていきます。

当院では各種あるIDBシステムの中からコモンベースシステムを採用しています。

MOOKB2

実際の口腔内では見えない方向などからもよく検討して装置(ブラケット)を模型に正確に仮着していきます。

そして模型上で仮着したブラケットに透明な移送トレー(レジンベース)を作製して患者さんの口腔内に装着(接着)していきます。正確な位置決めにより精度の高く効率的な治療を患者さんに御提供できるシステムです。

MOOKB0003

模型上で仮着した装置(ブラケット)にレジンベースを作成します。今回は写真で見えやすいようにピンク色で作成しています。レジンベースが硬化したら取り外し、患者さんの歯に装着します。装着後、レジンベースは撤去可能です。

 

 このコモンベースの作成に関しては技工所での作業ではなく、院長自らが責任をもって計測・仮着・作成まで行なっており、この際にもサージテルという拡大鏡を使用して精密な位置付けを心掛けております。

 

 

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

2017.12.03更新

【矯正歯科治療は必ず歯を抜くわけではありません】

 

まず知って頂きたいことは、我々矯正歯科医は無条件に抜歯をして矯正歯科治療をしている訳ではありません。まずは抜かないで治療可能かどうか検査データを基に十分検討します。私たちも出来れば抜歯しないで治れば良いと考えております。『抜歯をしない』それ自体がメリットであるからです。

 

しかし、凸凹の歯を並べたり、出ている前歯を後ろに引っ込めたりするにはSpaceが必要です。そのSpaceを作るために抜歯で得られた隙間を利用する訳ですが、抜歯以外でSpaceを作る方法としては、

(1)奥歯を後方に移動させる

(2)歯列を側方に拡大する

(3)歯のサイズを小さくする

等が考えられ、それぞれ条件が揃わないと出来ない場合もあります。また、2通り以上の方法を組み合わせる場合もありますが、それでもSpaceが足りない場合、無理に並べれば前歯が前方に傾斜して、口元が突出してしまいます。

(2)に関しては成長期であれば可能ですが、成人になってしまうと難しくなります。また、下顎の成長が悪いために前歯が出て見えるようなケースでは、成長を上手く利用することにより抜かないで治療できる場合が増えます。

 

<抜かないで治せるか、最初に以下のことを検討します>

(1)奥歯を後方に移動させる

上下左右の一番奥の歯を後方に移動させることが可能か検討します。奥歯の後方にある骨の長さが短い場合には後方への移動は行えません。横顔のレントゲン写真で計測して判断します。また親知らずがあれば、これを抜かなければ後方移動の妨げになってしまいます。

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左図:奥歯から順番に一本ずつ後方に移動させていくので期間を要します。

右図:奥歯の後方にある骨の長さを計測します。骨の奥行きが短い場合には奥歯の後方移動は行えません。残念ながら白人と違い、日本人ではこの奥行きが長い人はそれほど多くはありません。

 

(2)歯列を側方に拡大する

歯列自体の側方への拡大を考えます。しかし無理に歯列を拡大すると歯を支えている骨から歯の根が飛び出してしまい、咬み合わせもかえって悪くなってしまいます。また治療後に後戻りを起こしやすくなります。

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これも正面からのレントゲン写真で、歯列の幅を広げることが可能かどうか計測して判断します。

 

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無理な歯列の拡大を行うと、骨の幅の中で歯が外側に傾くだけです。支えている骨から歯は飛び出し、上下の歯が咬み合う面積はかえって少なくなってしまいます。

 

(3)歯のサイズを小さくする

つまり歯を削るということです。歯の表面は硬いエナメル質で出来ており、両端を0.4mm程度までなら削っても問題ありません。この方法で得られる隙間は、抜歯をして得られる隙間よりは少ないので、凸凹の量が多い場合には使用出来ません。また歯の形が細長い場合には、さらに細くなってしまうので、見た目の面からも行わない方が無難です。

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 (4)主には上記3つの方法で得られた隙間を利用して歯を並べ替えていきますが、それでもなお凸凹が並びきれず、歯を抜かないで治療するとすれば、前歯を前に出すしかありません。矯正歯科学的には、歯は単に並んでいれば良いという訳ではなく、顔面(横顔)の中で何処に前歯が存在するか、上下の顎の骨に対して、どのような角度で並んでいるかが重要です。もちろんピッタリ何mmとか何度とか決まっている訳ではなく、ある程度の許容範囲があり、その中で前方へ出すということになります。

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上の写真の方の場合は、上顎と下顎を結ぶ基準線(Md 1 to A-pog.)から、下の前歯が9mmの位置に存在しています。理想値は3mmなので、理想値まで改善するには抜歯をして隙間を作ることが無難です。但し、「必ず理想値まで移動しないといけない」という訳ではなく、理想値より+2mmのMd to A-pog.=5mmまでの改善が歯を抜かずに達成できるのであれば、抜かない矯正も検討します。このような場合には、どこまで治るかを十分シュミレーションしたうえで、患者さんと相談して決定していきます。

 

<抜いた場合と抜かない場合では、治り方が違います>

単に「歯を抜く矯正法と歯を抜かない矯正法のどちらを選びますか?と言われれば、当然「歯を抜かない矯正」を選択するでしょう。ただ歯を並べるだけで良いのなら、殆どのケースで抜かない矯正治療は可能です。但し、歯を抜く矯正法と歯を抜かない矯正法では同じ治り方にはなりません。同じように治るなら当然抜かないで治療します。三田矯正歯科医院のスタンスとしては、条件が整えば抜かない矯正治療を心がけておりますが、「抜かないで治療できるケースは抜かず、抜くべきケースでは抜く」というスタンダードな治療方針で行なっております。

 

<どうしても抜きたくない>

近年、歯科矯正用アンカースクリューを用いた矯正歯科治療で、奥歯を後方に移動させる方法があります。歯茎に小さなスクリューを埋入して、それを土台に歯を移動させるため、従来では抜歯が必要であったケースでも、抜かないで治せるケースが増えています。また、従来のWIREを用いた矯正治療法ではなくマウスピース型カスタム矯正歯科装置で治療可能な場合には特有の歯の移動方式から、従来では抜歯が必要であったケースでも、抜かないで治せるケースが増えています。それでも、これらの方法を用いれば全ての症状で歯を抜かずに治療できる訳ではありません。あらゆる方法を検討しても歯を抜く矯正が必要と判断され、患者さんがどうしても抜きたくないという場合には、矯正治療を行わないことも検討します。

 

 

 

投稿者: 三田矯正歯科医院 三田浩明

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