前回、前々回、前々前回の続きです。
近年、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載された
『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』の中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されていますので説明しています。
(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか
→成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する
前々回の記事で解説済み
(2)成長期の骨格性下顎前突にチンキャップは推奨されるか
→推奨しない
前回の記事で解説済み
今回は、
(3)成長期の骨格性下顎前突に機能的矯正装置は推奨されるか
→弱く推奨する
理由(抜粋&一般の方にわかりやすいように書き換え)
短期間(治療開始約1年)では、上顎骨の前方移動、下顎骨の後方移動といった骨格系の改善効果とそれに伴う横顔の改善効果がある。しかし、下顎骨成長終了時の治療効果についてエビデンスが欠如している現時点では、治療する/しないの選択において患者・家族の価値観や好みによるばらつきが大きくなると考えられ、弱い推奨とする。
【解説】
機能的矯正装置とは、筋肉の力や噛む力を利用した矯正装置です。上顎骨の劣成長や下顎骨過成長など、骨格自体に問題がある場合には効果はでません。単に、下顎を前に出して噛む癖がある場合や、上顎前歯が後方傾斜しているため正しい位置で噛むことができず、下顎を前に出さないと噛めないような場合などが該当します。
つまり、反対咬合になっている理由を調べずに機能的装置を使用することはない筈なのですが、現実的には矯正のための検査も行わずに下の画像のような既製品の装置を購入して安易に使用してしまう場合も少なくないようです。
誤解があるといけないのですが、この装置を否定するものではありません。正しい診断の元(なぜ骨格に問題がないのに反対咬合になっているかの原因を正しく特定できているか?)で、この装置の使用がベストであると判断した明確な根拠があれば良いと思います。但し、このような装置は比較的新しいものなので、この装置を使用した患者で長期安定しているかのデータがまだ多くはありません。上記の『エビデンスが欠如している現時点』とは、そういうことも意味しています。
当院では今のところ使用しておりません。
思いの外まとまらず4回に跨がってしまいましたが『成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン』の解説は今回で終了です。