成長期の骨格性下顎前突の診療ガイドライン(その2)
2023.02.19更新
前回の続きです。
近年、EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドラインに掲載された
『矯正歯科治療の診療ガイドライン 成長期の骨格性下顎前突編』の中で、骨格性下顎前突に使用される3つの代表的な矯正歯科装置の診療ガイドラインが掲載されていますので説明しています。
(1)成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか
→成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する
理由(抜粋&一般の方にわかりやすいように書き換え)
骨格的な、歯の移動による改善効果があるが、観察期間が長くなるにつれ、
それらの改善効果は小さくなる。最終的に、上顎前方牽引装置による治療群では外科的矯正治療が必要と判断される患者の数が対照群と比べ減少するものの、外科的矯正治療を回避できない患者は治療群でも一定数存在する。このように、患者によって治療を受けることの利益と負担のバランスにばらつきがある可能性があるため弱い推奨とした。
【解説】
残念ながら下顎骨の過成長を止める方法は存在しません(過去には止めようとしていた時代もありましたが、止められないことがわかってきたため、下顎骨の過剰な成長を止める目的の治療装置は使用されなくなっています)。上顎骨の成長が悪いために反対咬合になっている場合には、成長期であれば上顎骨自体の位置を改善することが可能な場合があります。
最適な時期に上顎骨の前方牽引を行うことにより、反対咬合の改善が得られ、その後の第二次成長期終了後でも安定している状態の場合もありますが、一旦は効果が得られ、尚且つ治療開始時には上顎後退型で下顎骨が長かった訳ではないのに、第二次成長期に下顎骨が過成長を起こしてしまう場合も一定数いるということになります。
【使用する装置】
上顎骨前方牽引装置として、当院ではフェイスクリブ(製造業者:Great Lakes Dental Technologies, LTD. 国内ではJM Ortho社が取り扱い)を使用しています。
お口の中(上顎)には下の画像のような装置を装着。奥歯の金具に矯正用の小さな輪ゴムを引っ掛けます。幼稚園の年長さんでも、慣れれば自分一人で引っ掛けることが出来るようになります。
お顔には、下の画像のようなフレームを装着します。上顎奥歯に引っ掛けたゴムを引っ張ってフレームにも引っ掛けます。ゴムを外せば、フレームも外れる仕組みです。やはり、慣れれば幼稚園の年長さんでも、自分一人で引っ掛けることが出来るようになります。
【効果例1】
9歳8か月の女子。反対咬合を気にされて来院されました。レントゲン分析の結果、下顎骨の長さに問題はなく、上顎骨の成長が悪い、上顎骨後方型の骨格性反対咬合であることがわかりました。
フェイスクリブの使用により反対咬合は改善。その後、身長が伸びている間は、下顎の位置は変化する可能性があるので凸凹の治療などは慌てては行わず、身長の伸びがある程度止まるまで待ちます。女子で14歳になれば、その後に下顎が伸びてくる心配は殆ど無いので、本格矯正歯科治療開始可能となります。
【効果例2】
6歳10か月の女子。同様に反対咬合を気にされて来院されました。レントゲン分析の結果、下顎骨の長さに問題はなく、上顎骨の成長が悪い、上顎骨後方型の骨格性反対咬合であることがわかりました。
フェイスクリブの使用により反対咬合は改善。効果例1の方と同じように、すぐに凸凹の治療は行わず、定期的に観察を行いました。小学校5年生頃までは問題は生じませんでしたが、その後、中学受験のためしばらく来院されなくなりました。中学受験後来院されると、下顎自体が1年の間に急速に伸びてしまっていました。
この場合、もしも1年間来院を休まなければ、下顎骨の成長を止められたかというと、そういうことではありません。止められないのです。
効果例1の方よりも早くから治療を開始し、一旦は改善していたのですが、こういうことは起こり得るうえに、予測することは困難です。
今までは、ガイドライン自体が存在しなかったのですが、ようやく『EBM普及推進事業(Minds)診療ガイドライン』に、成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置は推奨されるか→成長期の骨格性下顎前突に上顎前方牽引装置を弱く推奨する
という結論が出たことになります。
つまり、効果が出る方がいらっしゃる以上は推奨しない訳にはいかないが、なかには頑張って使用して頂いても効果が出なかったり、一旦効果が出ても、数年後に悪くなってしまう方も一定数は生じてしまうため、弱い推奨に留めざるを得ないということになります。
当院では、上記のようなことをよく説明させて頂きご納得頂いたうえで、ご希望されれば治療をさせて頂いております。
因みに、効果例2の方を矯正歯科のみ(外科手術を伴わない)で治療を行いました。
前歯の反対咬合は改善しましたが、下顎骨自体の位置は矯正歯科治療単独では改善不可です。できれば、下顎骨自体の長さから改善する外科矯正が望ましいのですが、ボーダーラインケースであったことと、ご希望を伺ったうえで、矯正歯科治療のみで行いました。
長くなってしまったので、続きは次回。
参考:合わせて読んで頂くと理解が深まるかと思います。
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